「通訳者への道―日中通訳者が語る通訳事情―」盛況のうちに幕

 7月30日土曜日、弊社主催の無料公開セミナー「通訳者への道―日中通訳者が語る通訳事情―」が国際交流基金北京日本文化センター多目的ホールで行われました。

 

 ベテラン会議通訳者の蔡院森氏、神戸松蔭女子学院大学文学部の古川典代准教授、弊社代表取締役社長の万紅がそれぞれのテーマで講演した後、同じくベテラン会議通訳者の周慧良氏、北京外国語大学日本語学科の徐滔准教授も加わってのパネルディスカッション。参加者からの質問に答える形で、日中通訳の第一線で活躍する5人に、自身の経験を語っていただきました。当日の司会は、CRI中国国際放送局の日本語部アナウンサーで会議通訳者としても活躍する王小燕さんが担当。

 

 同時通訳においてもトップクラスのベテラン会議通訳者蔡院森氏は、「訳海無涯勤作舟 溝通無限巧搭橋」というタイトルで、通訳者としてのキャリアや、現場経験を通じて学んだことなどを講演。蔡森院氏は、同時通訳、逐次通訳、翻訳をそれぞれ「ファーストフード(空腹を満たす)、定食(きちんと食べる)、フルコース(見た目も味も重要)」に喩え、三者の違い、役割と、それぞれに柔軟に対応するためのコツを紹介。また、ご自身の実際の経験を挙げ、優秀な通訳者は「ハードパワー、ソフトパワー、テクニック」を備えていなければならないと強調し、通訳者としての腕を磨くために必要なことを「通訳訓練篇」と「通訳技術篇」の2つに分けて紹介されました。通訳訓練篇では、常に安定したパフォーマンスを行う実力を養うため、朗読、シャドウイング、サイトラといった基本練習を日常的に行うことの必要性や、NHKラジオニュース、日経オンラインなどのオンラインメディアを上手に使い、常に時事問題や関連知識を蓄積していくことの重要性も指摘。また、自動車、IT、金融、知的財産権、生物、省エネ、環境保護等、多くの分野で大量の英語語彙が使われている現在、日中通訳においても英語は欠かせないツールになっており、今後は、英語にも通じているかどうかがパフォーマンスの出来を左右する、と英語の重要性を特に強調されました。通訳技術篇では、中立を保つことの重要性を強調しつつ、発言者の視点から内容を理解し、聞き手の立場で訳すことが大切と指摘。また、自身の経験を踏まえたメモ取りの方法をご紹介くださいました。訳出を行うときは、原文を意識しすぎない、特に漢字に引っ張られないようにする、といった注意点の他、日中で表現が異なる数量詞の処理法なども伝授していただきました。同時通訳のテクニックに関しては、中訳日と日訳中における独自のコツを披露。蔡森院氏のユーモアあふれる講演に、会場からは笑い声が上がっていました。

  神戸松蔭女子学院大学文学部の古川典代准教授は、「日本における中国語通訳の現況」をテーマに、分野別、雇用形態、通訳の形態という観点から通訳を分類した後、通訳トレーニングの方法および日本における通訳者養成機関の現況について紹介されました。通訳トレーニング法の紹介では、参加者とともにその中のいくつかを実践し、これまで通訳訓練を受けたことのない参加者にとっては、よい刺激となったようでした。古川准教授は、日本の中国語通訳市場に存在する問題として、「まず、希望者は多いが、プロで活躍できるのはほんの一握り。2点目は、収入が不安定なことから、フリーで生計を立てていくのが難しい。日本の中国語通訳者に女性が圧倒的に多いのはこのため。3点目として、エージェントにより報酬に格差があること。通訳者の報酬は、エージェントとの契約時のランクで決まるが、同時通訳と逐次通訳が同料金の場合もある。4点目は、第一線で活躍するベテラン通訳者は、多忙なためなかなか講師として教壇に立つ時間が取れない。これも通訳者の世代交代が進まず、後継者不足に陥る原因の一つになっている」との問題点を挙げられました。

  弊社社長の万紅は、通訳エージェントの立場から、「中国の通訳市場の現状と展望」について紹介。まず、経済、貿易、政治、外交、文化交流の角度から、日中通訳市場の展望について分析し、その後、通訳エージェントとしての長年の経験から、優秀な通訳者は、両言語の確かな運用能力、幅広くかつ深い知識、プロとしての通訳技術といったハード面の条件の他、高度な職業意識、学び続ける力、タフな心理的素地などのソフト面の条件も必要であると述べました。この他、プロの通訳者を志すなら、専門的な訓練を受けるのが近道であるとし、通訳教育の重要性を訴えました。中国における日中通訳訓練は現在黎明期を迎えたばかりで、各大学ではこぞって通訳専門コースを設置し、大学院生の受け入れを始めており、多くのエージェントが通訳訓練コースの設置に乗り出しています。また、企業や政府機関でも、通訳専門の職員を雇用したり、内部で通訳研修を実施したりしています。こうした動きは、通訳訓練の環境整備にとって好ましいもので、今後は、英中通訳や日本のノウハウを参考に通訳教育を発展させていくべきだと述べました。この他、中国における日中通訳の課題として、「通訳者、クライアント、エージェントの三者による協力関係を構築し、相互理解を深め、通訳市場を成熟させていく必要がある」と指摘しました。

  続くパネルディスカッションでは、講演を行った3名に加え、周慧良氏、徐滔准教授も登場しました。まず、それぞれがプロの通訳者となるに至った過程や現場でのエピソードについて簡単な紹介をしていただいた後、通訳者のキャリアと役割についての見解を語っていただき、その後、参加者からの質問に回答、という流れでした。初めて現場に出たときのエピソードでは、成功談も失敗談も耳にでき、通訳者を目指すセミナー参加者に大いに参考になったようでした。また、いかに仕事とプライベートのバランスを取っているのかという質問も飛び出し、ベテラン通訳者への注目度の高さが伺われました。生涯勉強、知識の獲得、通訳技術を磨くための独自の方法などなど、先輩通訳者からのアドバイスは、参加者にとって非常にためになるものでした。また、失敗や困難克服といった内容は、ほかでは聞けない生の貴重な経験談でした。

セミナー終了後に回収したアンケートには、参加者の率直な感想やセミナーで得た収穫などがしたためられていました。「優秀な通訳者になるためには、日々の努力、知識の蓄積がどれほど重要なのかを改めて痛感した。」「実際に現場で活躍されている方々のお話を聞いて、プロの通訳者なるために必要なものがわかった。言葉の能力だけではなく、テクニック、知識の積み重ねなどなど…。」「同時通訳を初めて実際に聞いて同時通訳者の仕事を実感しました。プロの通訳者の努力に感心して、自分も努力しなければならないと思いました。」

  専門の通訳エージェントである北京大来が今回のセミナーを企画した目的は、通訳者を目指して勉強中の人や通訳に関心を持つ人たちとベテラン通訳者との交流の場を設け、業界内での情報共有を促進し、多くの優秀な人材を通訳業界に取り込み、競争と協力を通じてより健全な通訳市場をつくっていくためです。また、こうしたイベントを主催することで、より多くの人に通訳を理解し、興味を持ってもらい、優秀な通訳者となることで自己実現を図り、ますますグローバル化が進む通訳市場に貢献していってほしいという願いもあります。

 また今回は、参加者に実際に同時通訳に触れてもらうため、会場にブースを設置して同時通訳サービスも提供しました。北京大来通訳講座に通って実力を伸ばした鄭霊芝、朱宏瑋、曹佳俊の3名がこの日の同時通訳を担当し、参加者からも高く評価されました。

 今回のセミナーは、メディア各社の注目も集めました。セミナー関連の報道は、下記のリンクをご覧ください。

CRI           :http://japanese.cri.cn/881/2011/07/31/201s178490.htm
                http://japanese.cri.cn/1041/2011/08/11/142s178996.htm

人民網日本語版:http://japan.people.com.cn/95917/7457382.html

人民網国際版  :http://world.people.com.cn/GB/15300843.html

人民網日本語版公式ブログ:http://blog.j.people.com.cn/?uid-1-action-viewspace-itemid-42
                          http://blog.j.people.com.cn/?uid-1-action-viewspace-itemid-43

中国網        :http://japanese.china.org.cn/jp/txt/2011-08/01/content_23117148.htm

 

 

 

 

 




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